【3】キャリア発達とメンタルヘルス

老年期の課題 (60代前半以降)

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中国キャリア・コンサルタント研究会|老年期の課題

記憶が減退し、活動力が低下することにより、さまざまな変化が精神的肉体的に起きてくるのが、この老年期の特徴です。

精神的肉体的に健康な老人は、円熟した静穏な状態に 達するといわれますが、ここでは性格の変化、対象喪失、不適応と健康障害などの発達課題にふれます。

1|加齢にともなう認知変化

加齢の進行にともなうもっとも代表的な認知変化は、身体的反応速度の遅延 (スローイング)です。
知能においては、人生経験、対人能力など結晶性知能は保持されますが、処理速度などの流動性知能の部分は低下します。(現在脳科学の研究がすすみ、加齢による記憶力や学習能力の低下は必ずしも影響があるとは言い切れないとされています)
ニューガーテン(Neugarten, B.L.)は、人は年齢が進むにつれ、内観的傾向が高まり、より熟慮し内面に目が向くようになり、人生に対し哲学的になるとしています。
シュルツ(Schultz,J.H.)は、高齢者は衝動的な部分が少なくなる半面、不安感に駆られることも多く、感情的にいっそう複雑化し、出来事に対し複雑な反応を示すとしています。

2|性格の変化

老年期には、2つの方向への変化が見られます。

1つは、好ましい方向への変化です。短気、直情径行、衝動、などから、柔軟、慎重、温和、温情などへ変わり、角がとれ円満な性格になります。
もう一つは、好ましくない方向への変化です。真面目さが頑固に、節約がけちに、几帳面が神経質に、といった変化です。

滋味のある好々爺になるか、頑迷で気むずかしい老人になるかは、個人のそれぞれの人生経験や自己評価、近親者との愛情関係などによります。
そのほか、老人に共通して次の傾向が見られます。

・ 活動力の減少にともない変化への志向性が低下。
・自分の主張を他者の意見に照らし修正することが困難になる。
・過去の失敗や不幸を悔んだりまた逆に成功や業績を誇示したりする。
・人との交流が激減し自信過剰あるいは逆に自信喪失などを招くようになる。
・人間関係が希薄になる結果、社会での役割がなくなる。

3|対象喪失

老人心理のもっとも根源的な課題は、愛情や依存の対象を失う『対象喪失 (object loss)』です。

歳を重ねると、若さ、健康、気力、聴力、視力、脚力、毛髪、歯、その他の身体部分や機能を失い、あるいは知的または物的財産を失います。
近親者については、親、配偶者、兄弟姉妹、友人、知人などの不幸、あるいは子どもの分離に遭遇します。
職業については、勤務先、仕事、地位、役職、部下、同僚、顧客、収入、学 敬、期待、生きがい、などの目標を失います。

対象喪失後、人が経験し解決していかなければならないプロセスをフロイトは『悲哀・喪の仕事』と呼びました。
対象喪失が起こり、悲哀の状態になると、人はその対象から別れられずに『執着』し、失った対象を『再生』し『理想化』しようとし、『悔み』『おびえ』『恨み』などに苦しむが、その苦しさを忘れまぎらわそうとして『躁的防衛』の機制が働き、結果的に人は喪失を『断念』するようになるとしています。

この『悲哀・喪の仕事』はキュブラー・ロス (Kübler-Ross,E.) によれば、『否認と隔離』『怒り』『取引』『抑うつ』『受容』というプロセスになるといいます。
また、ボウルビイ(Boulby,J.)によれば、『無感覚』『思慕と探求』『混乱と絶望』『再建」の4段階になるとし、このように老年期においては、対象喪失にと
もなう悲哀の心理が存在するとしています。

4|不適応と健康障害

前述のように、老年期では一般に、家庭の内外でその地位・役割を失い、家族・社会とのつながりが減少し、さらに身体的健康も経済的自立も失います。
これらの要因は互いに力動的にからみ合って、老人を精神的にもきわめて不安定な存在としがちです。
加えて、現代社会はあらゆる面で変化が激しく、老人が適応しにくい構造をもっています。老人の適応力は低下しており、状況変化に対応できず、さまざまなかたちの不適応を起こします。

老人の身体病理をみるとき、青年・成人期と比べて、生活反応が弱く早期発見が困難で、予備力・防衛力が低下しているため症状が進行しやすい状態です。また複数の合併疾患があったり、身体機能低下のため治療効果が得られにくく、心身の相関性が強いなどの諸点が指摘されます。
運動器官、感覚器官、内臓器官、神経器官などの全般にわたって老化と疾病が起こります。また、老年期の疾病や外傷にともない、筋肉・骨の萎縮、関節の拘 箱、循環障害など、二次的につくられる「廃用性症候群」が発生します。

これらの疾病や外傷は身体機能に障害を残すだけでなく、精神面にも影響を与えます。老人は自信を失い身体症状にこだわりやすくなります。
老年期に現れやすい精神的病態として、「不安神経症」「心気症」「強迫神経 症・恐怖症」「ヒステリー」「退行」「妄想」「うつ病」「自殺」「睡眠障害」「アルコール依存」「痴呆」などが指摘されます。

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