【3】キャリア発達とメンタルヘルス

キャリア発達・成人期の発達課題(20代後半~60代前半)

キャリア・コンサルティング

青年期と比べて心理的な安定が見られるようになりますが、その半面、情熱や純粋さが薄れ挑戦する意欲がなくなるのが成人期の特徴です。

成人前期の特徴として親密性と孤独、中年期として成長の充実と過剰適応、後期として知的肉体的な危機感、そして不適応と健康障害という危機が待ちかまえています。

1|心理的安定化

青年期において自分中心に強く向けられていた興味・関心が、成人になると広くまわりにも向けられ、自分自身のことだけでなく「家族」あるいは「集団」のためという配慮が現れてきます。

物事を多面的に見ることができ、現実的で慎重で常識的になりますが、その半面、妥協的になり、情熱や純粋さを欠き、可塑性が減少します。
感情の振幅が少なくなり、落ち着きが出てきます。

夫または妻として、あるいは親としての自覚が生まれ、未熟性から脱却し、責任ある行動をとれるようになります。その一方で、未知への挑戦や従来と違った生き方を避け、これまでの生き方や方法を維持しようとします。

2|親密性と孤立

成人前期の発達課題は、「就職」「結婚」「親になること」の達成を通じてラ イフスタイルを確立することと考えられてきました。ライフスタイルの確立によって自我同一性の安定感がもたらされますが、3つの課題の取り組みいかんによって危機が生じます。

青年期の発達課題である自我同一性の脆弱さにより、親密な人間関係を避け孤立し、表面的形式的人間関係しか形成できない人は、「就職」後の多様な人間関係のなかで緊張、不安、恐怖、疎外感に耐えられず、不適応に陥ります。

「結婚」は、さらに難しい課題です。結婚とは、相手の個を尊重・信頼しながら相互に欲求を満足しあうという相互性のうえに成り立ちます。そこでは自分の何かを失うのではないかという不安をもつことなく、自分の同一性と他者の同一性を融合できる親密性が求められます。自我同一性が脆弱な人にとっては難しい課題なので、婚姻関係を維持することが困難となるでしょう。

人が経済的に自立し、「おとな」としての要件を満たすためには、就職が必要です。そこで、職業的同一性を獲得するためにさまざまな職業経験を経て、そのなかで自我の同一性を強固なものにしていこうとします。
仕事を任され、社会的責任をとりながら、職業生活を安定的に維持していく ことが成人前期の大きな課題です。

しかし、個人と環境のミスマッチによって、出社拒否、離職、転職などさまざまな職場不適応が起きます。さらに昨今、企業再構築等による配転、出向、転籍のため、これまでの職務経験にもとづく業務遂行能力が通用しなくなり、自我同一性が崩され、不適応に陥るケースが増えています。

3|中年期への過渡期 (40歳以降)

ユング(Jung.C.G.)は、人生を太陽の動きになぞらえ、40歳を『人生の正午』と呼び、そののちの中年期を『人生の午後』と呼びました。
『人生の午後』の課題は、人生の前半で排除してきた自己を見つめ直し、新たな自己として取り入れることです。人生の午前中に背景へと追いやったもの、『影』(シャドー)になってしまった部分にも光をあてて、しっかり統合していく。それが真の個性化であるとユングはいいます。

エリクソンは、中年期の課題として『生殖性』『世代性』をあげています。
『生殖性』『世代性』とは、若い世代に意味あるものを伝え、生み出していくことです。この課題は家庭では子どもをつくり養育することで、また、 職場においては後輩を指導育成することで達成されます。

『人生の午前』では自分自身が坂を上りきることだけで精一杯ですが、「人生の午後』では、より若い世代の成長発達を援助するという課題が加わります。
『生殖性』『時代性』の達成は、自身の成長発達にも役立ち、自己実現の喜び をもたらすけれども、その半面、負荷やストレスが加わり、過剰適応を起こしやすくあります。 とくに現在の日本では、この年代が最大の困難性をかかえているといっても過言ではないでしょう。

4|中年期の危機

人は中年後期になると、人生の逆算をするようになります。
自分の年齢、両親等の死亡、同世代の死去、体力の低下などから、 残りの人生が短くなりつつあることを実感します。
中年の多くは、人生への幻滅感、停滞感、圧迫感、焦燥感などを感じます。家庭では、子どもの分離独立、親の介護、ローン返済、子どもの自立後の夫婦間の関係構築などの問題があります。職場では、中堅として過大な期待をかけられ、知的および肉体的能力の限界を問われます。

レビンソンはこの時期に、

① 若さと老いのせめぎあいの中で、うまくバランスをとること
② 男は強さにやさしさを統合し女はかわいらしさに自立心を統合すること
③ 人生前半の破壊と同じぐらいのエネルギーで創造的な関係をつくること
④ 家族や仲間とのつながりを大切にしながら自分自身を探し求めること

の4つの課題があるとしています。

このはかにも現代的ないくつかの課題への対応が、中年後期の岐路となり、 個人差をつくるとしています。
それらの課題をクリアできる人は積極的、創造的に生きられますが、クリアで きない人は停滞あるいは衰退するとしています。

5|不適応と健康障害

中年期の危機は、大きく分けて次の3つです。

1:体力の危機

体力、スタミナが減退し、成人病罹患、閉経、肉親の死などによって。自信を失い、老いを予測するようになります。

2:対人関係の危機

対人関係の広狭、硬軟などの傾向がはっきりしてきます。家族、親類、知人との別れや職業上の移動により、対人関係の構造に変化が起き、新たな対応が以要となります。

3:思考の危機

思考の柔軟性が減少し、自分なりのやり方や活動に固執するため、環境の変化や新しい考え方を受け入れにくくなります。

こうした危機のなかで、中年期ではこれまでの生き方について戸惑いが生じます。 自分の選択、価値観、職業、配偶者、家庭などが改めて問い直され、青年期以来の同一性の破綻を経験することによって混乱します。

中年期の職場ストレスによって、「昇進うつ病」「微笑みうつ病」「サンドウィッチ症候群」「燃え尽き症候群」「上昇停止症候群」「休日神経症」「帰宅担当 症候群」などが発症します。
また、成人期疾患として「単極性うつ病」「抑うつ状態」「不安神経症,」「アルコール依存症」などの精神障害や、「本態性高血圧」「虚血性心疾忠」「糖尿 病」「消化性潰瘍」「気管支ぜんそく」「偏頭痛」などの心身症が発症します。