【2】キャリア・コンサルティングの知識とスキル

キャリア・コンサルティングの基本的スキル (2of2)

キャリア・コンサルティングの基本的スキル (2of2)

4|アセスメント・スキル

相談者が将来のキャリアルートを合理的に選択し実践していくためには、選択・実践する主体者である「自分自身」についてよく理解することが第一歩です。

キャリア・コンサルタントは相談者が的確に自己理解できるように援助することが必要です。

自己理解には、3つのアプローチがあります。

1:本人自身 による自己分析
2:他者(コンサルタント)からのフィードバック
3:アセスメント(心理査定)によるフィードバック

アセスメントの方法として、

① 面接
② ツール(検査用具:心理検査=心理 テスト)の利用
③ ワークシート・記録の分析
④ 行動観察

などがありますが、本節では心理検査によるアセスメントについて、その目的、意義、ツール、検査上の留意点などを学びます。

アセスメントの目的

(1) 予測
相談者は何ができるか、何をしたいか、どのようにすればそれらを相談者のキャリア目標と調和させられるか、を考察します。

(2) 判断
相談者の特性と仕事の資格要件を比較し、相談者の過去のキャリアが今後のキャリア選択のどこに適合できるか判断します。

(3) 調査
相談者には特定の職業・職務を選択するレディネス (準備態勢) がととのっているか、成熟度はどうかを調べます。

(4) 評価
検査結果の解釈や問題の把握は適切であったか、キャリア目標が設定 されたとおり達成できたかどうか、などをふり返ります。

キャリア・コンサルティングにおけるアセスメントの意義

不適応者や病的な相談者を対象とする治療的なカウンセリングの場合、アセスメントの目的は…

① パーソナリティの構造等の把握
② カウント ングに有効な情報の収集
③ 相談者のカウンセリング後の行動予測
④ カウンセリングの効果判定の指標

などがあります。これに対し、キャリア開発や個の自立を援助する育成的なキャリア・コント ルティングのアセスメントは、コンサルタント側への支援的役割以上に、クラ イエントの「自己理解」や「自己洞察」をうながす点に、より重点がおかれます。

キャリア・コンサルタントに 求められるもの

キャリア・コンサルタントには以下の4つの項目が求められます。

(1) アセスメントを行う前提として、コンサルタント・相談者間に信頼関係が構築されていること

(2) アセスメント結果の有用性は、両者間の相互作用の中でコンサルタントが検
証すべきこと

(3)使用する心理検査に関し、「理論」「尺度化」「得点の意味」「信頼性・妥当性についてのデータ」「解釈技法」などに十分精通していること

(4)心理検査では関知しえない領域や範囲など、検査の限界についても十分把握
しておくこと

心理検査の特性と評価

心理検査の特性は主として、次の諸点により把握できます。

(1)客観性
テスト結果を評価性・テスト結果を評価する場合、個人的な興味や好き嫌いが影響するこ ないようにテストができていること。同じものを他の人が評価しても評価が一致することが客観性を証明します。

(2) 信頼性
人物特徴をあらわす指標としての一貫性や測定結果に安定性があること。検査者が違っても、同じ相談者が何回そのテストを受けても、結果に高い相関性があれば、信頼があるテストといえます。

(3) 妥当性
心理測定尺度の評価のもっとも重要な概念で、テスト得点を用いたある特定の推論が適切であるか、意味があるか、有用であるかを示します。測定しようとするものをどの程度正しく測定しているかが妥当性です。

(4) 標準性
基準集団の得点分布に照らして、相対的な位置が把握できるような得点におき換えられ表示されること。あるグループの中で、ある個人の示した反応は平均より逸脱した反応であるか、平均に比べ反応は多いか少ないか、その個人はグループのどこに位置づけられるかを示します。

主な心理アセスメント・ツール

キャリア・コンサルティングで用いる主なアセスメント・ツールの測定対象 ・利用目的・テスト名称は次のとおりです。

① 知能テスト

知能因子を明確に定義し、それを抽出し測定するテストです。
このテストでは職務との関連性には留意されないことが多くあります。

○ 田中ビネー知能検査
○ 鈴木ビネー式知能検査

② 性格・人格テスト

臨床心理学の領域で一般的な性格特性を測定するテストです。
元来、精神医学、臨床心理学の種々の精神的問題をもっている人の治療上、鑑別・診断のためのツール開発されたものが多くあります。

○ 矢田部ギルフォード性格検査(Y-G)
○ 東大版総合性格検査(TPI)
○ 生きがいテスト(PIL)
○ 文章完成法テスト(SCT)

③ 適性テスト

特定の職種に限定しない一般適性の把握にも、特定の職種・職務に関連づけされた適性の把握にも用いられます。

○ 内田クレペリン精神作業検査
○ 厚生労働省編「一般職業適性検査」(GATB)
○ 職業適性自己診断テスト(SDS)
○ 適職診断検査(CPS)

④ 興味テスト

複数の職業に対する興味(好き、嫌い)と志望(なりたい、なりたくない) を測定し、職業興味・志望の方向、強度を把握するテストです。

○ 職業興味テスト(VP1)
○ 教研式職業興味・志望診断検査
○ リクルートRCAP
○ 日本労働研究機構キャリア・インサイト

⑤ 行動・社会性テスト

社会人としての成熟度や対人関係のあり方等を把握するテストです。

○ 東大式エゴグラム(TEG)

テストの実施に関する留意点 (倫理綱領第14条)

① 同意

テストにあたっては、相談者が自己決定しうる必要かつ十分な説明も行うことが必要です。

② 知識・経験

テストを実施する場合、キャリア・コンサルタントは十分な知識、経験をも ち、また結果の解釈に習熟していることが求められます。

③ 使用方法

客観性、標準性、妥当性、信頼性を備えたテストを、マニュアルどおりに正しく使用しなければいけません。

④ 使用目的

どういう目的で何を知ろうとしているのかを明確にしたうえで、相談者に適合したテストを用いる必要があります。

⑤ 解釈

テストはあくまでも相談者を理解するための手がかりの一つの資料であり、決して決めつけてはいけません。

⑥ 場面構成

相談者に不安や抵抗を与えないように、あらかじめ話し合って理解させ納得させておくこと、また実施場面で圧力や緊張がないように、配慮しながら行うことが大事です。

⑦ 結果の説明

相談者がどの程度知識をもっているかを考慮し、分かりやすく伝えること、また希望、意欲を失うことがないように慎重に伝えることが大切です。

キャリア・コンサルタントのスキル

5|グループ・カウンセリング・スキル

キャリア・コンサルティングでは、グループ・カウンセリングの手法を活用することがあります。本節では、その効果・手法などを学びます。

意義

グループ・カウンセリングを定義すると、メンバー一人ひとりが解決すべき自分の問題や目標への洞察を深め、その解決に向かって意思決定し、行動化す るという目的をもちます。その意味で、個別カウンセリングの構成と基本的には同じです。

グループ・カウンセリングにはグループとしての目標はありません。あくまでも個々のメンバーがもっている目標を達成することが目標です。そのためにグループダイナミックスを活用するのです。

したがって、カウンセラーはリーダーとしてグループよりも個々のメンバーを大優先すべきです。また、グループメンバー間の相互作用は重要でありますが、相互作用しやすい人間関係をつくることが目標ではないことをしっかりと認識しておかなければいけません。

グループ・カウンセリングでは、個々人の態度や考え方、感情や欲求、行動に焦点をあてながら、メンバーひとりひとりのキャリア発達を含む心理的発達を促進強化することを究極の目的としています。

効果

① 情報提供と共有化

メンバーのひとりひとりが自分の職業選択やキャリア選択を広げるための情報 収集を行い、さらにグループメンバーで情報を共有します。そこから各々が自分の問題解決に役立つように活用します。

② 自己理解・問題解決の促進

安心のできる許容的な環境を形成することで、グループメンバーのひとりひとりが、自分のキャリア形成や発達について洞察を深め、自分自身の課題解決に向かって行動が促進されます。

③ 肯定的自己概念の形成

グループメンバー同士の受容的な相互作用のなかで、メンバーそれぞれが「他者の役に立てることの喜び」を経験することによって、自己概念を肯定的にとらえ直すことができます。

留意点

グループによるキャリア・コンサルティングを進めるうえでの留意点は、次のとおりです。

(a) グループとしての効果と効率を上げるためにはカウンセラーにグループダイナミックスを生かせるコンピテンシィと観察能力、メンバーを選ぶ力がいっそう求められます。グループ場面から恩恵を受けられる相談者と、そうでない相談者がいることは事実です。ちなみに、あまりに理屈っぽい人とか、批判的態度の強い人はグループには向かないといわれています。また、解決すべき問題や課題が共通しているメンバーで構成されることのほうが効果的です。

(b) カウンセラーはメンバーを選びグループを構成する責任があります。

(C) カウンセリングの目標を達成するためには、グループプロセスだけでは不十分な場合が多く、個別カウンセリングと組み合わせることがより効果的です。