【2】キャリア・コンサルティングの知識とスキル

キャリア・コンサルティングの基本的スキル (1of2)

キャリア・コンサルティングの基本的スキル vol.1

相談者の自己理解を促進するためには、コンサルティ ング・スキルなどが要求されます。ここでは、基本的スキルの「必要性」「応用」「アセスメント・スキル」「グループ・ カウンセリング・スキル」を学びます。

1|基本的スキルの必要性

ライフ・キャリアに関する問題を抱える人は、同時にさまざまな精神的問題を抱えています。キャリア・コンサルティングにおいても「精神的なケア・心理的問題の解決へのサポート」はコンサルティングの重要な柱と位置づけられています。
多くの相談者は、情緒的問題の解決によってもたらされる安心感や安定感をもつことができ、はじめて自らの現実と向き合い、将来を冷静かつ客観的に受けとめることができます。
キャリア・コンサルタントの役割は、たんなる職業斡旋や仕事の情報提供だけではありません。

キャリアの問題はある意味において、きわめて情緒的な問題でもあります。したがって、キャリア・コンサルティングとメンタルなカウンセリングとの境界は、明確でないことが多いのです。キャリアとメンタルは双方が複雑にからみ合っており、キャリア・コンサルティングはこの2つの側面から援助する必要があります。

2|カウンセリングの基本的スキル

カウンセラーの基本的態度

ロジャーズ(Rogers, C.R.)は、「技法はカウンセラーの基本的態度を伝えるチャンネルである」とし、基本的態度として次の3つの条件をあげています。

① 自己一致

自己一致とは、誠実であり純粋であること。自分を隠したり、必要以上によく見せたりするのではなく、ありのままに構えのない自分でいられることです。言い換えれば、自分の内面の感情をそのまま受けとめ、それを自分の意識の中で否定したり、歪曲しないでいられる態度・状態です。

② 無条件の肯定的配慮

一般に「受容」という言葉で理解されていますが、相手をかけがえのない独自の存在として尊重する態度です。すなわち、一人ひとりみな異なった考え方 ・感じ方をしていることを心から認めることです。

③ 共感的理解

共感的理解とは、その人の主観的な見方、感じ方、考え方を、その人のように見たり、感じたり、考えたりしようとすることです。

相談者がどのような基準で物事を見ているか、何を感じ、それが当人にとってどんな意味をもっているかということの正確な理解なしには、その人を理解したとはいえません。

相談者が何といっているかではなく、何を言いたいのかを理解できるような態度をもちつづけることが大事です。

傾聴のスキル

① 傾聴の意義

キャリア・コンサルティング

上記の基本的態度は、カウンセリングのいろいろの理論・流派においてもべ ースとなるものですが、それを具体的な手段として示そうとするのが、以下の傾聴の技法です。

傾聴とは、相談者を独自の存在として尊重し共感的に話を聴くことです。これがカウンセリングの基本となります。しかし話を言葉どおりに聴くというのではなく、言葉以外の沈黙やしぐさなども含めて相談者の思いを聴くことが大切です。

「この人はどうしてこんなふうな話し方をするのだろう」「どんな気持ちでこの話をしているのだろう」ということを分かろうとする積極的な姿勢で話を聴く。こうした傾聴ができれば、相談者は自分の気持ちを率直にのびのびと話すことができ、内面的に変化する可能性が生まれます。

傾聴は、カウンセリングにおいて、相談者とカウンセラーとの人間関係がきわめて重要です。カウンセラーに対して信頼がないと、相談者は心を開くことができません。相談者が何を話しても評価せずに受け入れてくれる、という安全な雰囲気を感じたとき、相談者はカウンセラーと本音の交流をすることができます。

② 傾聴の技法

(a) かかわり行動(姿勢・態度)

<意義>
相談者の話を聴くときに、カウンセラーは「相談者と共にある」を態度で示すことが重要です。言葉だけでなく、カウンセラーの姿勢や視線そして表情などのすべが、相談者へのメッセージとなります。

<方法>
● 視線
・凝視しないで自然に視線を相手に向けます。
・なるべく視線をそらさない。
・視線をそらしすぎると、相談者に対する無関心や回避をにつながります。
● 姿勢
・リラックスしてやや前傾になり相談者への関心を示しましょう。
・やさしく自然にゆったりとした表情や身ぶり。
・上体や脚を揺らせない。脚はしっかり床につけます。 腕組みをしない。
●言語による応答
・やさしく温かい言葉で相談者へに十分かかわる。
・カウンセラーは分かりやすく伝えしゃべりすぎない。
・相談者の話題を変えたり、さえぎったりしてはいけません。

(b) 簡単受容(うなずき・あいづち)

<意義>
相談者を尊重し、話の流れを妨げないで注意深く聴き相談者へ寄り添っている態度を示すことが大切です。相談者が安心して自分のことを話やすい場づくりをしましょう。

<方法>
・「うなずき」相談者の話をしっかり聴いているという態度を示します。
・ 「あいづち」相談者の話に心から耳を傾け理解に努める態度を示します。相談者の発言に対して、「はい」 「ええ」「なるほど」「そうですか」などで返答します。
・ 「くり返し」相談者の話の中のキーワードとなるような言葉(単語または短い語句)をくり返します。カウンセラーが相談者の話のポイントを真剣に聴いているということを伝え返します。

(C)事柄への応答(くり返し)

<意義>
相談者の話の内容を、カウンセラーが関心をもって聴き、その内容のキーポイントを正確かつ簡潔に伝えること、そのことによって双方がカウンセラーの理解をチェックしたり、確認することができます。

<方法>
相談者の経験・行動などを、相手の立場になって理解し話のなかのキーポイントと思われることを伝え返します。

<留意事項>
・相談者の話す内容の意味を勝手に変えたり、つけ加えたりしない。
・カウンセラーの価値観などから評価したり否定をせず受け入れます。
・相談者の言葉を機械的におうむ返しとならないようにします。
・本当にいいたいことは何か、ということに注意を集中。

(d) 感情への応答

<意義>
相談者の気持ち(言語化されたり、されていない欲求・願望・期待など)を注意深く聴きとり、それを伝え返すことで相談者を理解していることを示します。

<方法>
・相談者が言葉で表現している気持ちを注意して聴く。
・相談者が明確には気づいていない気持ちをも感じとる。
・相談者の態度や表情および声の調子などにも注意。
・相談者の立場でその思いを感じとろうとします。
・感じとった気持ちを、自分の言葉で明確に簡潔に伝え返します。
・自分が理解したとおりでよいのか相談者に確認する気持ちで伝え返します。
・自分の思い込みや価値観、常識から相談者の気持ちを評価・批判しない。
・相談者の気持ちとして、そのままに受けとめます。

(e) 意味への応答

<意義>
相談者の全経験、つまり感情とその理由をカウンセラーが理解したということを相談者に伝え返します。相談者が語る「事柄」や「感情」に応答するだけでは十分とはいえず、これら2つを結びつけ、そこに込められている意味を明らかにします。

<方法>
事柄への応答は、感情への応答と結びつけて行います。
・感情の言葉を表現するだけでなく、関連する経験・状況・理由など事柄と結びつけて応答します。
・相談者の立場になってみて、その感情や話の内容を理解します。

<留意事項>
・感情とは事柄に関するものであることを明記しておく必要があります。
・相談者の言葉そのままではなく、相談者が表明したことを 十分に理解したうえで、冗長にならずに簡潔に要約して用いましょう。

(f) 要約

<意義>
相談者の話の段落、あるいは一つのセッションの区切りに相談者の話の趣旨をまとめて伝え返しましょう。要約は、相談者の話から重要なテーマを系統立てて統合することであり、相談者が自分の考えをまとめたり、あるいは見直すのを援助し、相談者自身のテーマをさらに深く探索することを促進します。

<方 法>
・相談者の話のキーポイントを押さえ筋道立てて、正確かつ簡潔に要約。
・事柄だけではなく、それを気持ちと関連づけて要約。
・相談者の言葉だけでなく、相談者が本当にいいたいことは何かという点に注意を集中して感じとるようにします。

<留意事項>
・要約は、必要がある場合に行います。
・相談者の話を機械的にまとめるという作業ではありません。
・応答が冗長にならないよう注意します。

(g) 質問

<意義>
・質問は、カウンセラーが相談者に関心をもっていることを示します。
・質問は、たんにカウンセラーが情報を得るためということよりも相談者が自分の問題を正確に掘り下げるのを援助するために使います。
・質問は、相談者が自分の気持ちをより深く表現するのを助けます。
・質問は、カウンセラーには情報を提供し相談者には自分がどのような思い、こだわりなどをもっているのかを気づかせることに役立ちます。

<方法>
● 開かれた質問

・相談者が自由に回答できる質問をすることは、幅広く柔軟なた
を引き出し、会話を進めやすくします。
・「何」を尋ねる質問は、事実、事柄に関する情報を知ることができます。
・「どのように」と尋ねる質問により、相談者の個人的な感情、行動、意味などを知ることができます。
・「どうして」「なぜ」と尋ねる質問は、相談者を防衛的にし、窮屈にする傾向があります。
● 閉ざされた質問
自己表現がむずかしい相談者の場合は有効です。

<留意事項>
・事実や状況についての理解がまだ不十分だと思われたときに、質問をして確認するという姿勢が大切です。
・相談者を追及したり、教えたりするようなことを慎しみましょう。
・カウンセラーの興味主導にならないようにします。カウンセラーの持っている枠組みに位置づけようとしたり、自分の関心を満たすための質問は避けます。
・たてつづけの質問は避けましょう。

リードのスキル

① リードの意義

カウンセリングの基本原理は、相談者に「傾聴」することであり、相談者の内的世界を感じとることです。しかし、カウンセリングを効果的にすすめる場合に、傾聴だけでは必ずしも十分とはいえません。相談者の状況や相談者との関係、カウンセリングの流れなどによっては、よりインパクトの強い影響を与えて、意図的に方向づけをすることも必要になります。

このように、直接的に影響を与え意図的な方向づけをしよ うとする方法を「リード」の技法といいます。ただし、インパクトの強い方法は、 それだけに相手を傷つけるなどのおそれのある、いわば「両刃の剣」でもあることを常に念頭におき、使い方を誤らぬように十分注意する必要があります。

傾聴で信頼関係を築いたうえで、傾聴をベースとしながらリードの技法を用いることを原則とすべきです。また、傾聴の技法と関係づけながら、あるいは傾聴の技法で補いながらリー ドの技法を用いることを心がけましょう。

② リードの技法

(a) 情報提供(助言、意見、教示などを含む)

<意義>
相談者の目を新しい視点や新しい選択肢に向けさせるために、カウンセラーの考えや情報を伝えます

<方法>
・まず、相談者をよく観察し、カウンセラーからの情報や助言を受け取ろうとするレディネスがあるかどうかを判断します。
・情報を説明するときには、明確、特定的、具体的でかつタイムリーであることが大切です。
・情報提供を行ったのち、カウンセラーの考えが理解されたか相談者に確認しましょう。

(b) 指示

<意義>
カウンセラーが相談者にどのような行動をとってほしいかを明らかにします。そして、相談者がその課題を理解し、行動を確実にできるよう援助します。

<方法>
・身体言語、声の調子、視線の合わせ方を適切に(効果的なかかわり方)行います。
・明確で具体的な言語表現に努めます。
・指示が相談者に伝わり理解されたかどうかの確認をしましょう。

<留意事項>
・傾聴技法によって、相談者の心理的背景(ニーズ)を理解しておきます。
・指示が多すぎると、相談者から選択と自由を取り上げることになり、相談者の自主性や自己決定を阻害することになります。
・ある相談者には効果的であっても、別の相談者にはなく、むしろ有害である場合もあるので、注意が必要です。

(c) フィードバック

<意義>
カウンセラーや他の人がどのように相談者を見ているかという情報を相談者に提供します。相談者からすると、自分と自分の行動が他の人にどのように見えるかが分かり、自己探求、自己理解をうながします。

<方法>
・具体的で明確であること。
・相談者に対して非審判的でありましょう。
・相談者の事象とか行動に焦点をあてます。
・人格よりも事実に重点をおく。レッテルを貼ってはいけません。
・フィードバックは冗漫でなく、簡潔であることが大事です。
・相談者があくまでも主人公であることを念頭におきます。
・フィードバックののち、それがどのように理解されたか確認します。

<留意事項>
フィードバックが使われすぎると、相談者の自己防衛を招き自己理解を妨げるおそれがあります。

(d) 自己開示

<意義>
カウンセラーが自身の感じ方や経験を相談者に話すことで、相談者との信頼関係が深まり、また相談者の自己理解も深まる。

<方法>
・「私」という人称代名詞を用いた表現をします。
・内容や感情、またはその両方を動詞で表現します。”「……と感じます」「…
…と考えます」”など。
・副詞と形容詞とを組み合わせた言葉を用います。”「私はあなたが自己主張できるようになってとても嬉しい」”など。

<留意事項>
・カウンセラーは自己との関係において純粋でありましょう。
・カウンセラーの自己開示は、相談者の経験により近いものであることが大切です。
・自己開示をするタイミングの判断が重要です。
・もっとも強力な自己開示は、現在形の自己開示です。不適切に使うと、相談者との関係を壊してしまうおそれあるので注意が必要です。状況によっては、時制や強調点を変えることを考慮しましょう。
・カウンセラーの自己開示がどのように受けとめられたかを確認することが重要です。
・カウンセラーが自己開示を使うと、話題の焦点が相談者の関心事からそれてしまい、面接の自然な流れが妨げられることがあるので注意が必要です。

(e) 対決

<意義>
相談者の行動、思考、感情、意味における不一致、矛盾、混乱を指摘し、相談者が矛盾点を自覚し、自ら取り組めるよう援助します。相談者本人の自己対決によって、相談者は以前には見ることのできなかっ た自分自身や問題を新しい視点で見ることができるようになります。

<方 法>
・相談者の不一致を明確化します。相談者の言葉の中に含まれた矛盾を発見します。
・矛盾や、要旨の混乱について相談者から具体的にひき出します(質問技法などを用いる)。できるかぎり相談者自身でその矛盾をどのように解決したいのかを聴いていくことが望ましいでしょう。
・不一致の内容をときどき要約します。”「一方では…だけど、他方では…ですね」”。これにひきつづき確認をします”「どのように感じましたか?」”など。
・必要なら、矛盾についてのカウンセラーの意見や観察をフィードバックします。また、カウンセラーは、自分ならこうするだろうという自己開示をして、相談者の問題解決をうながすことを試みてもよいでしょう。

<対決を用いるタイミング>
・相談者の言葉と行動、相談者の言葉とその伝えられ方、あるいは相談者の個人的価値観と社会的価値観などの間に矛盾点を認めた場合。
・相談者が一貫性のない、あるいは矛盾した行動のパターンを示す場合。
・相談者が防衛的な手段を使い出した場合。
・相談者が非現実的な目標を設定した場合。
・相談者の感じ方と、カウンセラーの感じ方に不一致を認めた場合。

<留意事項>
・穏やかに、敬意をもって援助します。
・傾聴技法をベースとして用います。
・相談者との信頼関係を前提とします。
・問題をもっている人に焦点をあわせるのではなく、不一致の内容に焦点をあわせます。
・言葉のなかに非難や審判的な意味合いを含ませてはいけません。
・対決は、明らかに相談者の助けになることもあれば、反対に傷つけることもあります。

3|キャリア・コンサルティングへの応用

キャリア・コンサルティングにおいて、絶対的・理想的なカウンセリング・アプローチというものはありえません。どのようなカウンセリング・アプローチであっても、相談者との深い信頼関係がなければ、カウンセリングもコンサルティングも成立しません。
受容すること、共感的理解を示すこと、自己一致していることは、キャリア・コンサルティングにおける基本的態度であることに変わりありません。相談者との間に深い信頼関係が成立し、そのうえでキャリア開発、キャリア選択など具体的な援助ができます。
カウンセリングの技法をキャリア・コンサルティングへの応用にあたっては、傾聴技法のみならず、「指示・対決」などリードの技法を十分活用できるようにすることが大切です。