2|キャリア・カウンセリングの理論
キャリア・コンサルティングのよりどころとなるカウンセリング理論は、「感情的アプローチ」「認知的アプローチ」「行動的アプローチ」「発達的アプローチ」「統合的アプローチ」の5つにに分類されます。
感情的アプローチ
相談者がおかれた状況や環境よりも、相談者自身の現在の感情 や内面に焦点を合わせるアプローチです。
① 来談者中心療法
(a) 特性因子理論等の指示的カウンセリングと異なり、相談者自身のもつ 生来的成長能力を信頼して、相談者中心にカウンセリングを進めることを主眼とします。
(b) 人間の行動を規定しているものは、本人が自分自身をどう見ているかという 自己概念であると考え、相談者の自己概念と経験が一致する方向に援助することが、カウンセラーの役割です。
(c) カウンセラーに必要な基本的態度として、「自己一致」「無条件の肯定的配慮 (受容)」「共感的理解」の3つがあります。
来談者中心療法で強調する「傾聴」の態度、技法はキャリア・コンサルティングにおいて相談者との信頼関係を構築するうえで、また相談者の言語的非言語的表現を理解するうえで必要不可欠です。
② ゲシュタルト療法
(a) 人間を断片的な存在でなく、統合された存在として、ホリスティックに理
解します。
(b) 相談者の気づきにより、自分のこだわりを認知し、「図と地」の柔軟な統合性を回復し、「いま、ここ」に生きることができるように援助します。
ゲシュタルト療法の「現在に生きること」を大切にする実存的な考え方、「自己責任」の強調、「身体と心が一体になること」、すなわち「自己一致」の姿勢など、キャリア・コンサルティングにおいて重要です。
認知的アプローチ
人の感情は認知によって影響を受けるとして、情緒的混乱に陥っていている相談者に対し、認知を修正するように働きかけるアプローチです。
① 論理療法
(a)人間の感情は、それに先行する出来事によって直接引き起こされるのではあ
く、その出来事をどう受けとめるかという信念によって生じると考えます。
(b)したがって、不快な感情を低減するためには、不合理な信念を合理的なもの
に修正することが必要であるとする。
④ 認知療法
(a) 人間の病理的行動は、認知の歪みが固定化することにより、自己や環境を否
定的に考えることから起こります。
(b) そこで、否定的な自動思考に気づき、自動思考の背景にある本人のもつ一貫
した認知的な構え(スキーマ)をとらえて修正します。
相談者のなかには情緒的混乱あるいは不合理な物の見方、考え方によりキャリア選択が妨げられているケースが少なくありません。このような相談者の問題解決や意思決定を援助するうえで、認知的アプローチは非常に有効です。
行動的アプローチ
個人の病的症状や問題行動は、不適切な行動の学習、あるいは適切な行動の未学習によってもたらされるので、再学習によって新しい行動を ようとするアプローチです。
① 古典的条件づけ
パブロフ(Pavlov.I.P.)の条件反射説をもとに、態度・情動などの不随意反 点を修正する。代表的技法として、「系統的脱感作法」がある。
② オペラント条件づけ
ソーンダイク(Thorndike,E.L.)の実験を応用し、賞・罰によって、行為・習慣などを修正する。技法として、「シェーピング法」や「トークン・エコノミー法」等があります。
キャリア・コンサルティングにおいて、相談者の緊張・不安の緩和、主張訓練、あるいは課題提示やモデリングなどクライエントの啓発の援助に行動的アプローチが適用できます。
発達的アプローチ
発達は一生を通じての人間の行動変化のプロセスです。 人間の発達には、出生から死に至るまでいくつかの発達段階(ライフステー ジ)があり、各発達段階には社会環境に適応するために達成しなければならない課題があります。こうした発達課題の視点から援助を行うアプローチです。
① エリクソンの「発達課題」
(a) 青年期の発達課題は自我同一性(エゴ・アイデンティティ)の獲得と確立です。
自我同一性とは、自分自身が独自の存在であるという自己意識と、社会での役割、他者との連帯感、価値観の共有といった社会とのかかわりの意識を含んでいます。
(b) しかし青年期において、自我同一性の確立までにはある程度の時間が必要であり、社会での義務・責任が一時的に猶予されるため、青年期をモラトリアムと呼びます。 (青年期は、「意識的に選択しようとする自己」と「現実の自己」との間に矛盾・葛藤が生じ、自我同一性拡散・混乱に陥りやすい状況にあります。
② スーパーの「生涯キャリア発達理論」
(a) 青年期の発達課題は、それまでの自己概念の発達と現実吟味の過程を通して、 個人の興味・能力・価値観等を一つのまとまりのあるものに統合させ、試行的に選択することです。
(b) 40代の成人期では、課題や必要情報は異なるが、青年期と定過程が繰り返さます。課題達成のために必要な能力は、言望、探索、情報、意思決定、現実志向です。
キャリア・コンサルタントは、相談者が発達課題を解決し、そのための対処行動を身につけ、ふさわしい社会的役割を実践できるように、発達の視点から援助することが必要です。
たとえば、発達の初期段階にいる相談者の場合は、そのレディネス高めるように援助し、職業的に成熟している相談者の場合は、意思決定、現実吟味などを認知的、行動的に援助します。
統合的アプローチ
キャリア・コンサルティングにおいて、どのアプローチが最適か。上述の感 情的、認知的、行動的、発達的の4つに特定することはできません。結局、一つの理論だけにとらわれず、クライエントのニーズ、パーソナリティ、環境、面接段階などを考慮し、いくつかの手法を柔軟に状況対応的に用いること、つまり統合的なアプローチがもっとも望ましいといえます。
キャリア・コンサルティングの特徴は、感情的、認知的、行動的、発達的などのすべてのアプローチを包含していることであります。
この特徴を具体化した進め方が「システマティック・アプローチ」です。 そのプロセスは特性因子理論とよく似ているが、特性因子理論と違い非指示的な態度が求められます。
「システマティック・アプローチ」の重要な柱は、「意思決定) 策」「学習方策」「自己管理方策」の3つであり、すべてのステップに自己理 それを発達的にとらえています。そのことは、キャリア・コンサルタ 達的人間観を基本的前提としていることを示すものです。