これまで日本の社会・経済を築いてきたシステムが、大きな変革の波に洗われ新しい仕組みづくりが求められています。
そのもっとも顕著な表れは「組織」よりも「個人」としてどのように生きるか。
キャリア・コンサルタントが果たすべき役割は、キャリア形成の支援とその意義、倫理があります。
1|キャリア・コンサルタントの導入の目的と意義
企業がキャリア・カウンセリングに求めている社会的背景として4つの要因があります。
① 雇用保証の放棄
国際的競争の激化、自由化、また個人が企業からの独立という意向が高まり、企業は雇用保証を放棄せざるをえなくなっています。
② 職場の合理化による弊害
組織の「フラット化」「プロジェクト型」業務の移行で、上司と部下のコミニケーションが希薄化し、日常的な悩みごとを相談できる場が消失しかけています。
③ メンター機能の消失
「成果主義」「実力主義」型人事制度の導入で、先輩後輩の関係がライバル関係へとシフトし、組織内でのメンターとなる存在が少なくなっています。
(*メンターとは、若手の才能を見つけ上手に能力を引き出し、真価を発揮できるように支援する人物)
④ 労働形態の多様化
「裁量労働制」「フレックス勤務」「在宅・テレワーク」などの労働形態の多様化により、企業側からの仕事管理が難しくなってきています。
2|キャリア・コンサルティングの役割
① 緊急事態への対応
先行きが不透明な経済状態のもとで、予期しないリストラに遭遇している労働者が多くいます。この厳しい現実に対応し、問題解決していくことが緊急の課題です。
まずは心理的な面からケアしながら同時にキャリア形成にも援助していきます。
また、企業と個人の方向性をすり合わせながら、マッチングさせていくことが必要です。
② 能力を客観的に捉える訓練を支援
長期にわたり「会社人間」だった人は、自分の能力について客観的にうまく表現することができない場合が多くあります。
例えば、再就職の面接で「課長職ならできます」といったところで、具体的に何ができるのか伝わりません。
管理職ならば「目標管理」や「進行管理」など、販売職ならば「営業」「店舗運営」など、本人ができることを具体的に気づかせ提示できるように援助することが求められます。
③ 自律的キャリア形成の援助
キャリア・コンサルタントは、働く者個人のキャリアに関するさまざまな悩みや葛藤、意思決定などを含めたキャリア問題解決のサポートを行うことが求められます。
「何をやりたいのか」「目標の自分になるにはどのような課題があるのか」「自分の興味や能力・適性はどうか」など、これらを相談者本人に気がつかせる必要があります。
これには「傾聴」を基本としながら、相談者自分自身に冷静かつ客観的に見つめられるような質問をすることが求められます。
誰もが自分のことは自分が一番よく知っていると思いがちです。
しかし、他者と向き合い自分を語るなかから、新しい自分を発見するケースが多くあります。
また、相談者が持っている情報は判断材料としては乏しい場合も多く、キャリア・コンサルタントは相談を通じて、さまざまな必要情報を引き出し具体的なアクションプランを策定することで、自律的キャリア形成を支援します。
④ 環境の変化を見据えた助言
キャリア・コンサルタントは単に相談者の次の仕事への転職・斡旋するだけが仕事ではありません。社会の職業環境は常に変化しており、リストラがいつでも誰にでも起こりうる状況であることを自覚し、その人の家族生活も含めて広い視点で目を配り、適切な助言・支援を行わなければいけません。
⑤ 適切な情報提供・助言
転職・再就職のため求人情報をリサーチする段階では、相談者自身で求人を検索するとともに、具体的な求人情報をキャリア・コンサルタント自身も提供します。
企業の雇用形態が多様化するなかで、正規従業員だけでなく、パート・アルバイトなどの非正規従業員も重要な人的資源です。
非正規従業員でも管理職に登用される時代にきており、このような新しい柔軟性のある考え方を持つキャリア・コンサルタントは、既存カルチャーを変革する促進者という役割もあります。
⑥ キャリア研修の実施とフォロー
キャリア研修を実施する企業が増えています。
① 人事ガイダンス(自己申告・選択定年・フリーエージェントなど)
② ファイナンシャル・プラン(退職後の財産・生活設計の立て方など)
③ キャリア・デザイン(今後のキャリア設計の立て方など)
など。
これらを個人作業やグループワークで行い、得られた気づきを今後の行動に生かしていく、つまり実質的に研修効果を高めるフォローをキャリア・コンサルタントによって行う重要性が、いま求められています。
⑦ 望ましいキャリア開発の流れ
どのような仕事でも幅が広く奥が深い。キャリアを形成していくのは、仕事をどう掘り下げていくのかといった問題意識を持って行う必要があります。
① めざす姿を明確にする
② キャリア開発を計画する
③ 計画を上司と共有する
④ コンピテンシー(能力・適性)を高める
⑤ 異動などで実現する
3|キャリア形成支援におけるキャリア・コンサルティング
① 「どういう位置で何を支援しているのか」の自覚
キャリア・コンサルタントは相談者本人だけでなく、相談者の家族、友人関係、趣味、価値観など、多面的に捉えて助言・支援する必要があります。
「どういう立場で、相談者に何を支援しているのか」を自覚しておく必要があります。
② 求人者と求職者のマッチング
新たな雇用創出のため事業展開、失業者と求職者の就職促進が求められています。
キャリア・コンサルティングは求人者と求職者をマッチングさせる職業相談・職業紹介・能力開発などを包み込んでいく位置にあります。
③ 企業業績に貢献
企業の従業員に対するキャリア形成支援は、長期的には企業の業績を伸ばすことになります。
また、キャリア・コンサルティング のトラブルなどが未然に防げるとしたらは結果として有益となります。
④ キャリア形成の媒介として
キャリア形成そのものは労働者本人の責任ですが、その責任が果たせるようにするためには、情報や教育、さらにはある程度トライアルで、準備・試行する時間が必要になります。
⑤ 行政その他の機関との連携
労働者個人が意思決定し、対応できる範囲には限界があります。
個人の選択を支援し、確実性を高める支援をする機関として、行政・大学・NP0などがあります。キャリア・コンサルタントはこれらの機関と共にその役割を担う必要があります。
⑥ 企業の変化へのマッチング
企業再編など事業環境の変化が個人のキャリアに与える影響は大きいです。こ
事業の変化と労働者個人の方向をマッチングさせ、より自立した個人 の組織にしていくうえでも、キャリア・コンサルティングの位置と役割は大きいのです。